特集にあたって

近年，小児看護技術が実践される場は多様化している。小児医療では医療の進歩とともに，入院期間の短縮化が図られ，診療体制は外来診療，在宅医療へとシフトし，外来看護，小児の在宅看護へのニーズが増加している。小児慢性疾病をもつ子どもが地域で生活を送るようになり，就園・就学，進路選択，就労に向けた支援を受けながら成長・発達し，成人期へ移行する患者が増加している。また，ハイリスク新生児の増加に伴い，2010年以降，新生児集中治療室（NICU）や新生児回復室（GCU）が増床され，新生児看護へのニーズも増加した。これらに関連し，医療的ケア児の就園・就学が増加している状況から，2021年に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が施行され，今後ますます保育園や学校で医療的ケアが行われる状況の拡大が予想される。このように，小児看護技術の実践の場は，小児医療の動向，人口動態の変化や社会情勢の影響を受けて，常に変化しており，より複雑な背景をもつ子どもの状況に応じた専門性の高い，生活と医療にかかわる幅の広い看護技術の教育とトレーニングが求められている。

小児看護技術は小児期の解剖生理学的特徴から，緻密さと正確性，丁寧さと臨機応変な対応が求められ，まさに小児看護の専門性が発揮されるといえる。疾患や症状，検査・治療による複合的な身体機能への影響は，小児期の成長・発達と心理社会面に影響を及ぼし，これらは発達段階によっても，変化していく。このため，看護技術の実践には，解剖生理，疾患の病態生理，治療に関する知識を基盤に，子どもを主体とした権利擁護，子どもと家族を中心としたファミリーセンタード・ケア，発達促進，バイオサイコソーシャルなアプローチが重視されることの理解が不可欠となる。これらの内容は，基礎教育から現任教育を通して修得していく。

しかし，現状では病院の小児科の看護師にとどまらず，子どもの家族，外来や訪問看護ステーションで小児看護の経験をもたない看護師，保育園や学校で看護教育を受けていない教育者など，多様な背景をもつ支援者が看護技術を実践する場面が想定されることから，基礎教育から現任教育，看護師が他職種に行う教育と場面に応じた教育方法の再考が必要であると考えている。

看護学教育ではDX（デジタルトランスフォーメーション）に伴い，デジタル技術を活用した看護学の講義や演習，実習の変革が推進されている。教育現場では，新型コロナウイルス感染症（COVID-19）の拡大下で臨地実習を経験できなかった卒業生を輩出せざるを得ない状況を経験し，全人的な看護の技の修得をどのように保障するか，さまざまな検討が重ねられたと推察する。これらに対応する教育手法として，ICTを活用した教育が急激に拡大したが，今後，Society 5.0と医療DXに対応する看護師の養成は，社会的要請であり，教育への効果的なICTの活用と発展がさらなる課題とされている。

看護技術は，科学的根拠に基づくサイエンスの側面と，対象や看護技術を実践する場の状況に応じて方法を工夫するアートの側面を併せもつ。本特集では，小児看護技術の実践や教育経験が豊富な執筆者による，小児医療の多様な場における看護技術に必要な要素，専門性の高い技術の修得と実践，これに対応する教育方法を紹介している。看護実践の場と子どもに応じた小児看護技術のアートの側面と，教育のあり方を再考する機会となれば幸いである。

永吉美智枝
東京慈恵会医科大学医学部看護学科，
同大学院医学研究科看護学専攻准教授